「なぜ自分は損切りができないのか」「損切りばかりで資産が減るなら、意味がないのでは?」
含み損を抱えたまま、そんな自問自答を繰り返して眠れない夜を過ごす。
投資家なら誰しも一度は通る道ではないでしょうか。
そう感じるのは、決してあなたの意志が弱いからではありません。
実は、投資判断を狂わせる心理学『プロスペクト理論』という罠に、脳が影響を受けている可能性があるのです。この心理的傾向を克服しようと努めることこそが、ウォーレン・バフェットをはじめとする「成功している投資家」の共通認識。正しい対処法を知れば、再現性は高まります。
この記事では、プロスペクト理論の正体と、バフェットの名言から学ぶ「感情に負けない損切りルール」を解説します。
脳の仕組みを逆手に取った対策を知り、「塩漬け株」に悩むリスクを少しでも減らしましょう。規律ある投資家への一歩を、ここから踏み出してみませんか。
なぜ人は「損切り」ができないのか?投資判断を狂わせるプロスペクト理論とは

「もう少し待てば戻るはず」「ここで売ったら損失が確定してしまう」
真っ赤なマイナス表示のチャートを前に、葛藤した経験はありませんか。頭では「早く切るべき」と分かっているのに、マウスをクリックする指が動かない。
この現象、あなたの性格や意志力の問題だけではないかもしれません。人間の脳に元々備わっているとされる「プロスペクト理論」という心理的特性が関係しているといわれています。
まずは、なぜ私たちが合理的な判断をできなくなってしまうのか。そのメカニズムを心理学の視点から紐解いていきましょう。
プロスペクト理論とは?語源と投資における「3つの特徴」
プロスペクト理論(Prospect Theory)とは、行動経済学者のダニエル・カーネマン氏らが提唱した心理学の理論です。「プロスペクト」には「見込み」や「期待」といった意味があり、不確実な状況下での意思決定モデルを示したもの。この功績により、カーネマン氏は2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
投資において、この理論は主に3つの特徴として現れるとされています。
- 参照点依存性
今の株価が高いか安いかを、絶対的な価値ではなく「自分が買った価格(買値)」を基準(参照点)にして判断してしまうこと。 - 感応度逓減(ていげん)性
利益や損失の金額が大きくなるにつれ、そこから感じる喜びや痛みの感覚が麻痺していくこと。 - 損失回避性
利益を得る喜びよりも、損失を被る苦痛の方を過大に感じ、無意識に損失を避けようとすること。
中でも投資判断に影響しやすいのが、3つ目の「損失回避性」。
利益が出ているときは「確実に利益を得たい」と考えるのに、損失が出ているときは「リスクを冒してでも損をチャラにしたい」という正反対の行動をとってしまう。これが損切りを難しくしている大きな要因と考えられます。
損失回避の心理実験「人は得する喜びより損する苦痛が2倍大きい」
この心理メカニズムを体感するために、投資の現場でよくある2つの場面を想像してみてください。あなたなら、どちらの決断を下しますか?
【質問A:含み益が出ている場面】
保有株に、現在100万円の含み益が出ています。
- 選択肢1: 今すぐ売却し、確実に100万円の利益を手にする。
- 選択肢2: 明日の決算まで持ち越す。50%の確率で利益が200万円になるが、50%の確率で暴落し利益が0円になる。
【質問B:含み損を抱えている場面】
保有株に、現在100万円の含み損が出ています。
- 選択肢1: 今すぐ損切りし、確実に100万円の損失で終わらせる。
- 選択肢2: 明日の決算まで持ち越す。50%の確率で株価が戻り損失が0円になるが、50%の確率でさらに暴落し損失が200万円に膨らむ。
いかがでしたか?
一般的に、多くの投資家は【質問A(利益)】では「選択肢1:確実に100万円もらう」を選び、【質問B(損失)】では「選択肢2:持ち越して賭けに出る」を選ぶ傾向があるといわれています。
これを数学的な「期待値(平均して見込める金額)」で計算してみると、実はどちらも価値は同じです。
| 場面 | 選択肢1 (確実) | 選択肢2 (ギャンブル) | 合理的な判断 | 多くの人の行動傾向 |
|---|---|---|---|---|
| A:利益局面 | +100万円 | +100万円 | 同等 | 「利益を逃したくない」心理で、早めの利食い(チキン利食い) |
| B:損失局面 | -100万円 | -100万円 | 同等 | 「損を確定させたくない」心理で、塩漬け(リスク選好) |
冷静に見れば、質問Bの「選択肢2」は損失が倍になる危険なギャンブルです。しかし、人間は損失を目の前にすると、「損をする苦痛」を回避したい本能が強く働き、合理的な判断力を失いやすくなると考えられています。
行動経済学の研究では、人が損失から感じる精神的ダメージは、同額の利益から得る喜びの約2.25倍も大きいといわれています。「100万円儲かった喜び」より「100万円損したショック」の方が大きく感じられるため、脳は無意識に損失確定を先送りしようとするわけです。
脳のバグ?合理的判断ができなくなるメカニズム
なぜ私たちの脳は、これほどまでに損失を嫌うのでしょうか。
そのルーツは、太古の昔、人類が過酷な自然環境で生き残るために獲得した「生存本能」にあるという説が有力です。
食料が乏しい時代、食料を得る(利益)ことは生存にプラスですが、持っている食料を失う(損失)ことは、直ちに「死」に直結する重大な危機でした。そのため、脳は「持っているものを失うこと」に対して強烈なアラートを鳴らすよう進化したといわれています。
現代の株式市場において、お金を失っても命まで取られることはありません。
しかし脳の深層部分(大脳辺縁系など)は、チャートのマイナス表示を「生存への脅威」と誤認し、恐怖やストレス反応を引き起こすことがあります。その結果、理性を司る前頭葉の働きが鈍り、冷静な損切りができなくなる。
つまり損切りができないのは、性格の問題だけではなく、脳の構造上の特性(バイアス)である可能性が高いのです。「人間である以上、難しくて当たり前」。まずはそう認識することが、プロスペクト理論と向き合う第一歩となります。
「損切りは意味ない」?バフェットの名言に学ぶ勝ち組の思考法

ネット上の掲示板やSNSでは、「損切りばかりしていたら資産が減るだけ」「損切りなんて意味ない、待っていれば戻る」といった意見も散見されます。
確かに、根拠のないエントリーで損切りを繰り返せば、資産はジリジリと減っていくでしょう(いわゆる「損切り貧乏」)。しかし、長期的に資産を築いている投資家で、損切りの重要性を否定する人はほとんどいません。
ここでは、投資の神様ウォーレン・バフェットの言葉や古今の格言を借りて、成功している投資家が実践する「鉄の掟」を学びましょう。
ウォーレン・バフェットの黄金ルール「損をしないこと」の真意
世界で最も著名な投資家、ウォーレン・バフェット氏は、投資における自身のルールを次のように語っています。
ルールNo.1:決してお金を損しないこと(Never lose money.)
ルールNo.2:ルールNo.1を絶対に忘れないこと(Never forget rule No.1.)
一見すると、「一回も負けてはいけない(勝率100%を目指せ)」という意味に聞こえるかもしれません。しかし、多くの専門家はこの言葉の真意を「再起不能な致命傷を負ってはいけない」と解釈しています。
投資の世界において、小さな擦り傷(小さな損切り)は必要経費といえます。バフェット氏が最も戒めているのは、一つのミスで資産の大半を失い、市場から退場させられてしまうこと。
「生き残ること」こそが最大の利益の源泉であり、そのために必要なのが、皮肉にも「早めの損切り」なのです。
「損切り貧乏」になる人と「資産を守る」人の決定的な違い
なぜバフェット氏はこれほどまでに「損」を嫌うのか。それには明確な数学的な理由があります。
以下の表をご覧ください。これは、失った資産を元に戻すために必要な利益率(リターン)を示したものです。
| 損失率(含み損) | 元本回復に必要な利益率 | 回復の難易度 |
|---|---|---|
| -10% | +11% | 容易 |
| -20% | +25% | 可能 |
| -30% | +43% | 困難 |
| -50% | +100% (2倍) | 極めて困難 |
| -90% | +900% (10倍) | ほぼ不可能 |
この数字のカラクリを、元手100万円を例にシミュレーションしてみましょう。「負ければ負けるほど、取り戻すのが絶望的に難しくなる」理由が見えてきます。
ケース1:早めに損切りできた場合(-10%)
- 100万円の株が下がり、90万円で損切り(-10万円)。
- 元に戻すには、残った90万円で10万円の利益を出す必要があります。
- 計算式:10万円 ÷ 90万円 ≒ 11%
- 結論: 次のトレードで11%勝てば取り戻せます。十分に現実的な数字ですね。
ケース2:損切りが遅れて塩漬けにした場合(-50%)
- 「戻るだろう」と放置中に暴落、50万円に(-50万円)。
- 元に戻すには、残った50万円で50万円の利益が必要です。
- 計算式:50万円 ÷ 50万円 = 100%
- 結論: 次のトレードで資金を2倍(+100%)にする必要があります。プロでも年利20%出せれば優秀とされる世界で、短期間に資産を2倍にするのは至難の業。
損失が出ると次の投資に使う「種銭」自体が減ってしまうため、減った分を取り戻すには、減った割合以上のパワーが必要になるのです。これが「損失の非対称性」。
「損切りは意味ない」という主張は、この数学的な事実を見落としている可能性があります。一度深手を負うと、復活には莫大なエネルギーとリスクを要する。だからこそ、傷が浅いうち(-10%以内など)に撤退することが、資産を守るための極めて重要な条件となるのです。
感情的なトレードを戒める投資の格言とマインドセット
プロスペクト理論による感情の暴走を抑えるため、先人たちは多くの「格言」を残してくれました。迷ったときに思い出したい言葉をいくつか紹介します。
- 「見切り千両(みきりせんりょう)」
損失が出ている株を早めに見切って売ることは、千両の利益を得るのと同じくらい価値がある。ズルズルと持ち続けるリスクを断ち切った自分を、褒めてあげましょう。 - 「一番目の損が最良の損」
最初に「ダメだ」と思った時の損切りが、結果として最も傷が浅くて済むという教え。時間が経つほど、損失も精神的ストレスも膨らんでいきます。 - 「損切りと利食いは呼吸と同じ」
呼吸をするように自然に、感情を入れず淡々と行う。「損=失敗」ではなく、「損=ビジネスの経費」と割り切るマインドセットが大切です。
バフェット氏の教えやこれらの格言に共通するのは、「自分の感情よりも、資金(数字)を守ることを優先せよ」という冷徹なまでのリアリズムなのです。
プロスペクト理論を克服せよ!感情を排除して損切りする3つの技術

ここまで読んで、「理屈は分かったけれど、実際のチャートを前にすると手が止まってしまう…」と不安を感じる方もいるでしょう。それは当然のこと。プロスペクト理論は強力な本能であり、意志の力だけで抑え込むのは非常に難しいからです。
だからこそ、頼るべきは意志力ではなく「感情が入る余地のない仕組み(ルール)」。多くのトレーダーが実践している、3つの具体的な技術を紹介します。
エントリー前に「逆指値」を入れて自動的に損失を確定させる
非常に強力かつ即効性が期待できる方法の一つが、「逆指値(ぎゃくさしね)注文」の活用です。
逆指値とは、「株価が〇〇円まで下がったら売る」という予約注文のこと。通常の指値注文が「利益確保」のための注文であるのに対し、逆指値は「これ以上下がったら逃げる」という命綱(ストップロス)の役割を果たします。
【鉄の掟】
- エントリー(購入)と同時に、必ず逆指値を入れること。
- 一度入れた逆指値は、絶対に下にずらさない(損失を拡大させない)こと。
含み損が発生してから「どうしようかな」と考えていては、プロスペクト理論が発動して売れなくなります。しかし、購入直後の「まだ損をしていない冷静な状態」なら、合理的な損切りラインを設定できるはず。
感情が暴走する前に、機械(システム)に決済を任せてしまいましょう。
※注意点:相場の急変時や週明けの窓開け(価格が大きく離れて始まること)の際は、指定した価格より不利な価格で約定するリスク(スリッページ)がある点には注意が必要です。
メンタル崩壊を防ぐ「ポジションサイジング(資金管理)」の徹底
損切りができない大きな原因の一つに、「自分の許容範囲を超えた金額(ロット数)でトレードしている」ことが挙げられます。
例えば、全財産が100万円の人が、100万円全力で一つの株を買ったとします。もし10%下がれば10万円の損失。これは精神的に大きなダメージとなり、パニックで正常な判断ができなくなります。
一方、10万円分しか買っていなければ、10%下がっても損失は1万円。「まあ、勉強代だな」と冷静に処理できるでしょう。
【2%ルールのすすめ】
多くの投資本で推奨されている資金管理法に「1回のトレードの損失額を、その時点の総資金の2%以内に抑える」というルールがあります。
重要なのは、資金が減ったら、次の損切り額も減らすという点。
- 1回目: 資金100万円 × 2% = 2万円まで損してOK
→ もし負けたら、残金は98万円。 - 2回目: 資金98万円 × 2% = 1万9600円まで損してOK
→ もし負けたら、残金は約96万円。 - 3回目: 資金96万円 × 2% = 1万9200円まで損してOK…
このように、負けが込んだ時はリスク(賭け金)を徐々に小さくすることで、資産の減少カーブを緩やかにします。
手数料等を考慮しない単純計算ですが、このルールなら理論上、50回連続で負けたとしても、資金の約36%(36万円以上)が手元に残る計算になります。
一発退場を防ぎ、相場に長く生き残り続けるための「命綱」。それがこの2%ルールです。
サンクコスト(埋没費用)を無視して「今」の価値で判断する習慣
最後に、思考のクセを矯正するテクニック。「サンクコスト(埋没費用)」という経済学の概念をご存知でしょうか。「すでに支払ってしまい、どうやっても取り戻せない費用」のことです。
投資で言えば、「買った時の価格(買値)」がこれに当たります。
私たちはつい「1000円で買ったから、1000円に戻るまでは売りたくない」と考えがちですが、市場にとってあなたの買値は何の関係もありません。
【自分への問いかけ】
損切りを迷ったときは、次の質問を自分に投げかけてみてください。
「もし今、ノーポジション(この株を持っていない状態)だとしたら、今の価格でこの株を買いたいと思うか?」
- 答えが「YES(買いたい)」なら:
上昇の根拠があるということ。保有(ホールド)しても良いかもしれません。 - 答えが「NO(買いたくない)」なら:
上昇の根拠がない、あるいは下落トレンドだと判断している証拠。即座に売るべきです。
「過去にいくらで買ったか」というサンクコストを忘れ、「今、その株に価値があるか」という現在と未来だけにフォーカスすること。これが、プロスペクト理論の呪縛を断ち切る思考法です。
損切りの目安はどこ?「ティック(Tick)」や「%」での基準設定

「損切りが大事なのは分かったけど、具体的に何円下がったら売ればいいの?」
この問いに唯一の正解はありませんが、投資スタイルによって「適切な目安」は存在します。なんとなく決めるのではなく、自分のスタイルに合った「物差し」を持つことが重要です。
ここでは、代表的な2つの基準である「ティック(Tick)」と「許容損失率(%)」、そしてチャート分析に基づいた基準について解説します。
トレードスタイルで変える!「ティック数」と「許容損失率」の使い分け
投資期間の長さによって、損切りの基準は大きく異なります。短期決戦なのに深く損切り幅を取ったり、長期投資なのにわずかな変動で損切りしていては、利益を積み上げることが難しくなります。
以下の表を参考に、自分のスタイルがどこに当てはまるか確認してみましょう。
| スタイル | 投資期間 | おすすめの基準 | 具体的な目安(例) |
|---|---|---|---|
| デイトレード (スキャルピング) | 数秒〜数時間 | ティック(Tick) | 5〜10ティック (値動きの最小単位で管理) |
| スイングトレード | 数日〜数週間 | 損失率(%) | -5% 〜 -10% (株価の変動幅で管理) |
| 中長期投資 | 数ヶ月〜数年 | シナリオ崩れ | -15% 〜 -20% (企業の成長物語が終わった時) |
【用語解説:ティック(Tick)とは?】
ティックとは、株価が動く「最小単位」のこと。
例えば、株価が1,000円の銘柄で、次の値段が1,001円、1,002円と1円刻みで動く場合、「1ティック=1円」となります。
デイトレーダーのような超短期売買では、「〇〇円下がったら」という金額よりも、「逆方向に〇〇回動いたら(〇〇ティック動いたら)即カット」というように、値動きの回数を基準にすることが一般的です。
- 活用例:
「この銘柄は値動きが激しいから、5ティック(5回分の値動き)逆行したら損切りしよう」と決めることで、わずかなノイズに惑わされず、かつ大怪我をする前に脱出できます。
一方、数日間保有するスイングトレードであれば、日々の細かいティックの動きは気にする必要がありません。その代わり、「買値から5%下がったら機械的に売る」といったパーセンテージでの管理が有効です。
根拠のない設定はNG!チャートの節目を基準にする重要性
「とりあえず-5%で損切り」と機械的に決めるのも一つの手ですが、より確度を高めるためには「チャートの節目(多くの投資家が意識している価格帯)」を意識する必要があります。
なぜなら、多くの投資家が「ここで下げ止まるだろう」と注文を入れている価格帯(節目)には、大きな買い注文が集中しているからです。
【正しい損切りラインの置き方】
例えば、株価が1,000円の時に購入したとします。チャートを見ると、過去に何度も980円で下げ止まっている(反発している)ことが分かりました。これを「支持線(サポートライン)」と呼びます。
- 悪い例:
何も考えずに「-1%(990円)」に逆指値を置く。
→ 980円の支持線まで下がる途中の「単なるノイズ」で損切りさせられ、その後に反発上昇していく(往復ビンタを食らう)可能性が高いです。 - 良い例:
支持線である980円を「明確に割り込んだら」トレンドが変わったと判断し、975円あたりに逆指値を置く。
→ 「支持線が機能している間は保有し、それが破られたら逃げる」という明確な根拠に基づいたトレードができます。
損切りの極意は、自分の財布事情(いくら損したくないか)だけでなく、市場の合意(みんながどこを意識しているか)に合わせて設定することなのです。
プロスペクト理論と投資心理学に関するよくある質問

最後に、プロスペクト理論や投資心理学について、初心者の方が抱きがちな疑問にQ&A形式でお答えします。
損失回避バイアス(Loss Aversion)は経験を積めば治りますか?
残念ながら、損失回避バイアスは人間の脳に組み込まれた本能に近い性質であるため、完全に「治す」ことは難しいといわれています。
ベテランの投資家であっても、損失が出れば「嫌だな」「売りたくないな」という感情は湧いてきます。初心者とプロの違いは、その感情が湧いたときに「感情に従うか」それとも「ルールに従うか」という一点に尽きます。
これを「ミュラー・リヤー錯視」という目の錯覚に例えてみましょう。

上の図の線は、矢印の向きが違うだけで、長さは同じ。知識として「同じ長さだ」と知っていても、どうしても長さが違って見えますよね?
プロスペクト理論もこれと同じです。「損切りしたくない」と感じるのは脳の錯覚だと割り切り、その感情を無視して淡々と処理する訓練を積むことが、有効な解決策の一つといえます。
プロスペクト理論以外に注意すべき「投資心理学」の罠は?
投資判断を狂わせる心理バイアスは、プロスペクト理論以外にもいくつか存在します。代表的なものを2つ紹介しましょう。
- 確証バイアス(Confirmation Bias)
自分の持っている株にとって「都合の良い情報」ばかりを集め、「都合の悪い情報」を無意識に無視してしまう心理です。- 対策: 「自分が売り手だったら、この株をどう批判するか?」と、あえて逆の視点を持って情報を探すようにしましょう。
- アンカリング効果(Anchoring Effect)
最初に見た数字(アンカー)が基準となり、その後の判断が縛られてしまう心理です。- 例: 「ずっと1,000円だった株が800円になったから安い」と思い込んでしまう(本当は業績悪化で500円の価値しかないかもしれないのに)。
- 対策: 「過去の株価」ではなく、「現在の企業価値(PERやPBRなど)」を見る習慣をつけることが大切です。
まとめ
この記事では、「なぜ人は損切りができないのか」という問いに対し、プロスペクト理論という心理学の観点から解説してきました。
重要なポイントを振り返ってみましょう。
- 損切りできないのは本能
損失を回避したいという脳の仕組み(プロスペクト理論)が原因であり、あなたの性格のせいではないかもしれません。 - 「損切り=必要経費」
ウォーレン・バフェットが教える通り、市場から退場しないことが最優先。-50%の損失を出して資産を2倍にする苦労をするより、-10%の軽傷で撤退する方が遥かに簡単です。 - 感情を排除する「技術」を使う
- エントリーと同時に逆指値を入れる。
- 2%ルールで資金管理を徹底し、恐怖心を取り除く。
- サンクコスト(買値)を忘れて、今の価値で判断する。
「損切り」は、自分の過ちを認めるようで辛い行為かもしれません。しかし、それは決して「敗北」ではなく、あなたの大切な資産を守るための「英断」です。
今日から、まずは少額でも構いません。「逆指値注文」を入れることから始めてみませんか?
その小さな規律の積み重ねが、やがてあなたを「感情に振り回されない、自立した投資家」へと成長させてくれるでしょう。

