「新NISAで積立を始めたけれど、資産が倍になるのは一体いつ?」
「72の法則は聞いたことがある。でも、115の法則との違いや数字の根拠までは知らない」
ふと、そんな疑問を抱いたことはないでしょうか。
実は、この2つの法則を使い分けるだけで、電卓を叩くことなく「資産が2倍、3倍になるまでの期間」が瞬時に分かります。これは単なる経験則ではありません。複利と対数の仕組みに基づいた、将来設計に欠かせない「論理的な定規」なのです。
この記事では、金融理論の視点から計算式や「なぜ72で割るのか」という数学的根拠、さらにインフレ率を考慮した実質利回りのシミュレーションまで徹底解説します。
72の法則と115の法則とは?資産が2倍・3倍になる計算式

資産運用において、ゴールまでの距離感をつかむことは大切です。
とはいえ、複雑な複利計算を暗算するのは至難の業。将来の資産額をパッとイメージするのは簡単ではありません。
そこで役立つのが「72の法則」と「115の法則」。
これらを活用すれば、手元のスマホを取り出さずとも「資産がいつ目標額に達するか」をその場で算出できるようになります。まずは基本的な計算式と使い方を見ていきましょう。
72の法則:資産を「2倍」にする期間の計算方法
「72の法則」とは、元本が2倍になるために必要な年数を簡易的に求める公式です。投資の世界では古くから知られており、複利効果を測るための最もポピュラーな指標といえます。
計算式は、驚くほどシンプル。
72 ÷ 年利(%) ≒ 資産が2倍になる期間(年)
この式の「年利」には、%の数字をそのまま当てはめます。
例えば、年利4%で運用できたとしましょう。「72 ÷ 4 = 18」となり、約18年で資産が倍増することが分かります。もし少しリスクを取って年利6%で運用できれば、「72 ÷ 6 = 12」。期間は12年まで短縮されます。
ここで重要なのが、単利(元本のみに利息がつく)ではなく、複利(利息が利息を生む)が前提であるという点。
単利の場合、年利4%で元本を倍にするには25年かかります。それが複利効果によって7年も早まるのです。「72の法則」は、この複利の威力を直感的に理解する上でも役立つでしょう。
115の法則:資産を「3倍」にする期間の計算方法
資産が2倍になる時期が分かれば、次は「さらに増やすにはどれくらいかかるか」が気になるところ。
そこで登場するのが、資産が3倍になる期間を算出する「115の法則」です。
知名度は72の法則に劣りますが、FIRE(早期リタイア)や老後資金の形成など、長期目標を立てる際には非常に強力なツールとなります。
計算式はこちら。
115 ÷ 年利(%) ≒ 資産が3倍になる期間(年)
手元に1000万円の資金があり、これを3000万円に増やしたいケースで考えてみます。
年利5%で運用する場合、「115 ÷ 5 = 23」。約23年かかる計算です。
先ほどの72の法則と併せて考えると、より立体的な投資計画が見えてくるはず。
年利5%の場合、約14.4年で資産は2倍になりますが、そこからさらに約8.6年(23年-14.4年)運用を続けるだけで、資産は3倍に到達します。
後半になればなるほど資産増加のスピードが加速する。
この複利ならではの性質が、2つの法則の差分から読み取れるのではないでしょうか。
【早見表】年利別・資産倍増までの期間一覧
紹介した2つの法則を使って、主要な年利ごとの到達年数を一覧表にまとめました。ご自身のポートフォリオの期待リターンと照らし合わせてみてください。
※以下の表は計算上のシミュレーションであり、将来の運用成果を保証するものではありません。
| 年利(%) | 資産が2倍になる期間 72の法則 | 資産が3倍になる期間 115の法則 |
|---|---|---|
| 1.0% | 72.0年 | 115.0年 |
| 3.0% | 24.0年 | 38.3年 |
| 4.0% | 18.0年 | 28.8年 |
| 5.0% | 14.4年 | 23.0年 |
| 7.0% | 10.3年 | 16.4年 |
| 10.0% | 7.2年 | 11.5年 |
利回りのわずかな差が、時間の経過とともに大きな差を生むことが一目瞭然です。
例えば、銀行預金に近い0.01%(メガバンクの普通預金金利など)で計算すると、資産が倍になるには7200年かかります。これでは、生きている間に資産が増えたと実感するのは難しいでしょう。
一方で、インデックス投資などで現実的に狙える5%〜7%のレンジであれば、10年から15年という現実的な期間で資産倍増が見えてきます。
(※あくまで過去の長期平均であり、年によってはマイナスになることもあります)
まずはこの早見表を参考に、投資ゴールから逆算して「必要な利回り」を把握することから始めてみてはいかがでしょうか。
なぜ72と115なのか?数字で学ぶ法則の根拠と仕組み

「なぜキリの良い100ではなく、中途半端な72や115を使うのだろう?」
法則を知ったとき、誰もが最初に抱く疑問ではないでしょうか。
実はこの数字、適当に決められたものではありません。「計算のしやすさ」と「正確さ」のバランスを極限まで追求した結果選ばれた、魔法の数字なのです。
難しい数式は抜きにして、その理由を直感的に紐解いてみましょう。
実は「72」ではなく「69.3」が正解?
数学的に厳密な計算(自然対数を使った計算)を行うと、資産が2倍になるための基準値は、本来「約69.3」という数字になります。
しかし、日常生活で「69.3 ÷ 年利」を暗算するのは少々無理があります。
そこで、69.3に近く、かつ割り算がしやすい数字がないか探されました。
- 70:7や10で割れますが、3や4では割れません。
- 72:2, 3, 4, 6, 8, 9, 12…と、多くの数字で割り切れます。
そう、「72」は圧倒的に約数が多く、暗算に最適だったのです。
本来の「69.3」から少し数字をズラしたことで生じる誤差も、実は金利が高め(年利8%など)の場合にはかえって実際の期間に近くなるという嬉しい副作用も。
つまり、72の法則とは「本来の正解(69.3)を、人間が使いやすいようにカスタマイズした実用的な公式」といえます。
単利と複利の違いが生む圧倒的な差
この法則がこれほど重視される背景には、「複利」の威力が人間の感覚を超えているという事実があります。
例えば、1000万円を年利5%で運用する場合を比較してみましょう。
- 単利(元本のみに利息)
毎年50万円ずつ増えます。30年後には+1500万円で、合計2500万円。 - 複利(利息が利息を生む)
利益が雪だるま式に増えます。30年後の合計は、なんと約4322万円になります。
同じ期間、同じ金利でも、複利運用にするだけで1800万円以上もの差がつきます。
人間の脳は「直線的な変化(単利)」を想像するのは得意ですが、「曲線的な急上昇(複利)」をイメージするのは苦手なもの。
だからこそ、「いつ急上昇して倍になるのか?」を直感的に把握できる「72の法則」が、資産形成において必須のツールとなるわけです。
【応用】資産の「半減」や「借金」も計算できる?意外な活用法

「複利は人類最大の発明である」
アインシュタインが残したとされる有名な言葉ですが、実は続きがあると言われています。
「知っている人は複利で稼ぎ、知らない人は利息を払う」
72の法則は、まさにこの「払う側」に回った時の恐怖や、何もしていなくても資産価値が削られていく「インフレ」の速度を測るためにも使えます。資産を守るための防御策として、もう一つの使い方をマスターしておきましょう。
逆・72の法則:インフレで資産価値が半分になる期間
私たちが普段使っているお金の価値は、物価が上がれば相対的に下がります。いわゆるインフレ(インフレーション)です。
72の法則を応用すれば、インフレによって「お金の価値がいつ半分になるか」を計算できます。計算式は変わりません。
72 ÷ インフレ率(%) ≒ 資産価値が半減する期間(年)
例えば、日本銀行が目標としている「物価上昇率2%」が継続したと仮定しましょう。
この場合、「72 ÷ 2 = 36」。約36年で現金の価値は半分になります。
もし今、タンス預金で1000万円を持っていたとしても、36年後のそのお金は現在の500万円分の価値しか持ちません。
「元本保証だから安心」と現金のまま放置することが、長期的には「資産価値が目減りするリスク」がある。この数字がそれを物語っています。資産運用は「増やす」ためだけでなく、「価値を守る」ためにも欠かせないのです。
借金の複利効果:カードローンやリボ払いの怖さを知る
資産運用では年利5%を出すのも一苦労ですが、借金の世界では年利15%~18%といった高金利が平然と存在します(消費者金融のカードローンやリボ払いなど)。
ここでも72の法則を当てはめてみましょう。もし年利18%(リボ払いの一般的な金利)で借金をし、返済が滞って利息が元本に組み込まれていった場合、借金総額はどれくらいの期間で倍になるでしょうか。
72 ÷ 18 = 4
答えは、わずか4年です。
4年で借金が倍になり、8年で4倍、12年で8倍…。これが「知らない人は利息を払う」という言葉の真意でしょう。この恐ろしい倍増スピードを数字で理解していれば、安易なリボ払いや高金利ローンがいかに危険な選択か、論理的に判断できるはずです。
固定金利と変動金利:住宅ローンへの応用的な視点
最後に、多くの人にとって最大の負債である「住宅ローン」への応用的な視点を紹介します。
ここでは72の法則を使って、「繰り上げ返済すべきか、投資に回すべきか」という永遠のテーマに一つの解を出してみましょう。
判断基準はシンプル。「住宅ローンの金利」と「想定される投資リターン」の倍増期間を比較するのです。
- ケースA:住宅ローン金利 0.5%(変動金利)
- 借金(元本相当)が倍の負担感になる期間(概念値):72 ÷ 0.5 = 144年
- ケースB:インデックス投資の期待リターン 5.0%
- 資産が倍になる期間:72 ÷ 5 = 14.4年
この場合、借金のコストが増える(または利息負担がかさむ)スピードよりも、資産が増えるスピードの方が圧倒的に速いことが分かります。
数字で見れば、「低金利の住宅ローンは急いで返済せず、その資金を投資に回して資産を育てた方が、トータルの資産効率は良くなる可能性が高い」という考え方もできます(※もちろん、将来的に金利が上昇した場合は、この前提が崩れる可能性がある点には注意が必要です)。
このように、72の法則を「資産」と「負債」の両面に当てはめることで、感情に流されない合理的な家計戦略を立てることが可能になるのです。
インフレと税金を考慮した「実質リターン」での活用法

「72の法則で計算したら、15年で資産が倍になる!これで老後は安泰だ」
もしそう考えているなら、少し注意が必要かもしれません。
なぜなら、その計算には「インフレ(物価上昇)」と「税金」という、資産を削り取る2大要素が含まれていないからです。
額面の金額が2倍になっても、世の中の物価も2倍になっていれば、生活水準は変わりません。真に豊かな未来を描くためには、これらを差し引いた「実質リターン」で法則を使いこなすことが大切です。
インフレ調整:物価上昇を差し引いた「真の利回り」計算
まずはインフレの影響を除外した「実質利回り」の求め方から。厳密なフィッシャー方程式などもありますが、簡易的には以下の引き算で算出できます。
実質利回り ≒ 投資の期待リターン - 予想インフレ率
例えば、S&P500などのインデックス投資で年利7%のリターンを見込んでいるとします。一方で、将来的なインフレ率を2%(日銀の目標値)と仮定しましょう。この場合、あなたの資産の実質的な成長率は5%(7-2)となります。
これを72の法則に当てはめて比較してみます。
- 名目上の倍増期間(年利7%):
72 ÷ 7 ≒ 約10.2年 - 実質の倍増期間(実質利回り5%):
72 ÷ 5 ≒ 約14.4年
「資産が倍になった」と通帳を見て喜べるのは10年後ですが、「今の2倍の贅沢ができる」という購買力の実感が得られるのは14年後になるわけです。
ライフプランを立てる際は、この約4年のズレをあらかじめ織り込んでおくことが、将来の「こんなはずじゃなかった」を防ぐ防波堤となります。
税引き後リターン:NISAと特定口座で変わるゴール時期
次に考慮すべきは「税金」です。
通常、投資で得た利益には約20%(正確には20.315%)の税金がかかります。しかし、新NISA口座であればこれが非課税。この「20%の差」が、資産倍増のスピードにどれほど影響するか計算してみましょう。
前提条件:年利5%の投資信託で運用する場合
- ケースA:新NISA口座(非課税)
手取り利回りは5%そのままです。
72 ÷ 5 = 14.4年 で資産は倍になります。 - ケースB:特定口座(課税あり)
利益の2割が引かれるため、実質的な手取り利回りは 4%(5% × 0.8)に低下します。
72 ÷ 4 = 18.0年 で資産は倍になります。
その差は3.6年。
たった20%の税金と思うかもしれませんが、複利の世界ではこれがゴール到達時期を3年以上も遅らせるブレーキとなります。
逆に言えば、「NISA枠を優先的に活用する」ことは、資産倍増のゴールテープを3年以上手前に引き寄せる効果が期待できます。
「72の法則」を使う際は、単に商品の利回りを見るのではなく、「インフレ率を引き、税金を引いた後の数字」を分母に置くこと。これが、数字に強い投資家が実践しているシビアな計算術です。
【注意点】72の法則は「嘘」?誤差が出るケースと正しいシミュレーション

ここまで72の法則の有用性を説いてきましたが、インターネット上には「72の法則は嘘だ」「使えない」といった声も散見されます。
なぜそのような誤解が生まれるのでしょうか。
その最大の原因は、「前提条件の取り違え」と「市場変動の無視」にあります。法則の限界を正しく理解し、より精度の高いシミュレーションを行うためのポイントを押さえておきましょう。
積立投資には「126の法則」:一括投資との混同に注意
最も多い失敗パターンが、新NISAなどで主流の「積立投資」に、この「72の法則」をそのまま当てはめてしまうこと。
72の法則は、あくまで「最初に一括投資をして、その後は追加資金なしで放置した場合」の計算式です。毎月コツコツ資金を追加していく積立投資の場合、元本自体が増え続けるため、計算式が全く異なります。
積立投資で資産を2倍にする目安を知りたい場合は、「126の法則」を使用しましょう。
126 ÷ 年利(%) ≒ 積立投資で元本が2倍になる期間(年)
例えば、年利5%で運用する場合を見てみます。
- 一括投資(72の法則): 72 ÷ 5 = 14.4年
- 積立投資(126の法則): 126 ÷ 5 = 25.2年
(※積立元本の総額に対し、資産評価額が2倍になる期間)
積立投資の方が時間がかかるように見えますが、これは「最初の積立額」だけでなく「途中で積み立てたお金(運用期間が短いお金)」も含めて全体が倍になるまでの期間を示しているためです。
自分の投資スタイルが「一括」なのか「積立」なのかによって、使うべき定規(法則)を持ち替える必要があります。ここを混同すると、「計算より全然増えない」という誤解が生じてしまうのです。
利回りが高いほどズレる?法則の限界と計算誤差
第2セクションでも触れましたが、72の法則は数学的な近似値です。そのため、金利が高くなればなるほど実際の期間とのズレ(誤差)が生じやすくなります。
特に注意が必要なのが、新興国債券や暗号資産などで見られる年利15%〜20%といった超高配当・高ボラティリティの世界。こうした領域では、72の法則による簡易計算はあくまで「ざっくりとした目安」に留め、過信しない姿勢が求められます。
また、現実の相場は毎年一定のリターン(例:毎年きれいに5%ずつ上昇)を出すわけではありません。+20%の年もあれば-10%の年もあります。72の法則は「平均リターン」を前提とした机上の空論であり、「シーケンスリスク(運用の序盤で暴落するリスク)」などは考慮されていない点も、頭の片隅に置いておくべきでしょう。
自分で計算してみよう:Excel関数(NPER)を使ったシミュレーション
「概算ではなく、自分の積立額とボーナス併用まで含めた正確な時期を知りたい」
そんな理系思考のあなたには、法則に頼らずExcel(エクセル)やGoogleスプレッドシートで精密な計算を行うことをおすすめします。
使うのは「NPER関数(Number of Periods)」です。
=NPER(利率, 定期支払額, 現在価値, [将来価値], [支払期日])
例えば、「元手100万円、毎月5万円積立、年利5%」で「資産が2000万円になるまでの期間(月数)」を求めたい場合、セルに以下のように入力します。
=NPER(5%/12, -50000, -1000000, 20000000)
※支出(投資)はマイナスで入力します。
【注意】この計算結果は「月数」で表示されます。年数を知りたい場合は、結果を12で割ってください。
この関数を使えば、72や115といった定数に縛られることなく、「ボーナス増額」や「初期費用の有無」など、あなたの家計状況に完全にカスタマイズされた「あなただけの資産シミュレーション」を作成することが可能です。
法則で全体像を掴み、関数で詳細を詰める。この二段構えこそが、失敗しない資産運用の鉄則といえるでしょう。
まとめ
資産運用における羅針盤となる「72の法則」と「115の法則」について、その計算式から数学的な根拠、そしてインフレや税金を考慮した実質的な活用法まで解説してきました。
要点を振り返ります。
- 72の法則は資産を「2倍」に、115の法則は「3倍」にする期間を暗算で導くツールである。
- その根拠は**「複利と対数」**にあり、72という数字は計算しやすさを優先した実用的な定数である。
- インフレによる資産価値の半減(逆・72の法則)や、借金の倍増スピードなど、リスク管理にも応用できる。
- 本当の豊かさを測るには、インフレ率と税金(約20%)を引いた**「実質利回り」**で計算すべきである。
- 積立投資には**「126の法則」を使い、より正確な計画にはExcelのNPER関数**を活用する。
投資の世界には「絶対」はありませんが、「数字」は客観的な判断材料となります。
漠然とした将来不安を抱えたまま投資をするのではなく、これらの法則を使って「いつ、どうなるか」を可視化することで、あなたの投資行動はより合理的で自信に満ちたものになるはずです。
まずは、ご自身のポートフォリオの期待リターンを72で割ってみてください。その数字が、あなたの資産形成のゴールを見据える第一歩となります。


